ホーム›狂俳日々徒然› 狂俳とは, 狂俳の作り方 › 狂俳の探究 第二回 編集部
前号から、樗流会各雅の狂俳についての疑問にお答えをしようと、新しく「狂俳の探求」欄を設けました。
第一回で取り上げた“季題と季語について”早速会員各雅から、いろいろなご意見が寄せられました。そのうち最も多かった意見は、愚坊大人のご指導では「季題に季語を詠み込むのは題意を表す一番安易な方法とのご意見でしたが、実際には季語を詠み込むことによって、句がぐっと引き立って来ます。」やはり季題の句には、季語を詠み込むことが自然の流れになっているようです。しかし愚坊大人がご指摘されているように、季語を詠み込むことによって句が題に近くなり、ともすると説明句になりやすいのではないかとのお考えは、誠に当を得たご意見かと思います。今後私たちが句作りを勉強するに当っては、やはり季題に季語を詠み込まなくても、しっかり題意が生かされるような句作りに励むことが必要ではないかと思います。
また、各雅からのご意見の中に「季題に季語を詠み込まないと選んでもらえない」というのも多くありました。句の善し悪しもあるでしょうが、季題に季語を詠み込むことの有無は、この辺りにも大きな原因があるようです。今後は句会で選に当たられる選者各雅には、季題の句については一層心して、季語が詠み込まれているかいないかに拘わらず、いえ季語が詠み込まれていない句で十分に題意が溢れている句があれば、積極的に選んでいただきたいものです。
季題と季語のことについて、前回の執筆以降に既刊の樗流誌の狂俳入門編を繙いていましたら、平成十八年四月一日「樗流一九〇号」で、季題と季語についてを質問形式で具体的に指導されておられる記述を見つけましたので、以下紹介します。
解説 曽北社 田中愚坊
今回は事務局より題をいただきました。
春季題の「暖か」と雑題「うまい」です。大多数の人が、季題には季語を詠み込みます。これは題意を表わす一番安易な方法だからです。
併し考えてみると句が題に近く、ともすると説明句と言われてもやむを得ぬ場合もあるので注意しなければなりません。
今回の春季題の「暖か」の質問雅の句から、季語の詠み込まれていない句を選んでみました。今後の各雅の参考にしていただければ幸いです。
また、「うまい」の句題も、作句者によっていろいろな捉え方、更には、詠み方によって彼我が違うなどの例として取り上げてみました。
質問雅 有終社 清水干流
原句[ 暖か ]
懐の財布が重い
暖かは季語でも雑でも詠めます。上手に詠んであります。春季でも詠んでみてください。
原句[ うまい ]
孫の書初め賞に入る
前句と共に佳句です。これからは良い師につき良い本を読む事でしょう。参考迄に樗流会発行の花筐二巻を読んで研究されることをおすすめ致します。
質問雅 奥津保社 波多野妙生
原句[ 暖か ]
日ざし待つひと手をこする
句を読んだ時寒さを感じます。春は名のみ寒さが続く時、雲間から日が覗くと
例句[ 暖か ]
笑う日ざしに背が伸びる
句の中に暖かさを感じませんか。暖かい日ざしに貴雅ならどうしますか。それを詠む事により句の中に暖かさを感ずるのです。
原句[ うまい ]
手料理客喜ぶ
手料理を食べると客はどんな反応を示すでしょうか。勿論おいしいと言われるでしょう。又黙って箸がすすむでしょう。余さない様に綺麗に食べる、お代わりをするでしょう。それを五七に組めばよいのです。
例句[ うまい ]
料理へ客の箸すすむ
句の中にうまいを感じませんか。狂俳は題を詠むのではなく、題は頭の中に作った句の中からほんのりと題を感ずればよいのです。
質問雅 御はい社 加納久子
原句[ 暖か ]
散歩ハミングついて出る
春未だ浅き朝散歩すると体が暖かくなり、鼻唄が出てきます。和やかな佳句です。
原句[ うまい ]
① 愛のつまったチョコもらう
② 愛を詰め込みチョコ渡す
はうまいでしょう。②は渡す方の立場で詠まれていて、うまいのは貰う人です。彼我が違っています。だから①と②では意味が違うと思います。①は佳句、②は再考。貴雅は狂俳の基礎は出来て来たと思います。これからは着想に意欲を持って努力されると、立派な句ができると思います。頑張ってください。
季題と季語について、前回発刊の樗流二五一号の中で選ばれた句を吟味してみました。前号の季題は、子供の日、空梅雨、向日葵の三題でした。ざあーっと目を通しただけでも、いくつか季題に季語を詠み込まず題意を表現している佳句がありました。目に留まった句を次の通り紹介します。
令和三年度第一回樗流誌上競点句より抜粋
未来を担う宝祝ぐ
吟声社 寿扇
選者 東雲庵昇竜 藤乃庵春香
清和の天に気宇満ちる
華陽社 秀香
選者 東雲庵昇竜
ダムの底古里見える
雅社 華泉
選者 斐桜庵卯月
夜叉姫に願いを掛ける
巴社 昇竜
選者 斐桜庵卯月 胡蝶庵桃花
背戸の筧も水細る
美州社 照善
選者 斐桜庵卯月
降る時降らにゃどもならん
巴社 郁男
選者 胡蝶庵桃花
ダム底の家現れる
鵜沼社 のり子
選者 胡蝶庵桃花
ゴッホに似た絵孫が描く
藍水社 文花
選者 峰岳庵昌仙
黄色大輪丘に咲く
三栄吟社 良泉
選者 雀遊軒邦佳
ゴッホの名画思い出す
華陽社 恵水
選者 一水亭凡舟
以上紹介した句は、季題であるにも拘らず季語を詠み込むことなく題意を表している句であります。この句を詠まれた作句者の各雅、またそれを理解した上で選ばれた選者の各大人に、敬意を表する次第です。
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